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【6月・7月公開映画】放送作家・町山広美が厳選!この夏観たい映画2選
執筆者:InRed編集部
InRedの長寿映画連載「レッド・ムービー、カモーン」。放送作家の町山広美さんが、独自の視点で最新映画をレビュー。今回は、6月・7月に公開される注目作をご紹介します。
死ぬまで死なない、死んでも死なない
お互いが名乗りあったばかりの夜に、朝まで話し続ける。話せば話すほど、この人ともっと話したい。得も言われぬその興奮が、『急に具合が悪くなる』にはパッケージされている。
同名の原作は、女性2人の往復書簡。がんの多発転移が始まり、医師から「急に具合が悪くなる」という期限をすでに告げられた哲学者と、まだ知り合ったばかりの医療人類学者。死を視界に置きながら、研究者同士が思索を投げ合う哲学問答の中身もさることながら、最高のキャッチボールの相手を見つけたと高まっていく様が胸を打つ。知に秀でた40代が、放課後のおしゃべりが止まらない高校生みたいに、時間が永遠にあると思えたあの頃のようにワクワクするのだ。
そんな熱っぽい交流の記録を濱口竜介監督は、パリに転生させた。かつては哲学の徒で演出家の道を選んだ真理と、人類学の研究者だったが介護施設を運営するマリー=ルー。彼女は施設スタッフとの軋轢に悩み、自身の理念と実践の接続不良に苦しむ日々にあって、真理が演出する、イタリアで精神病院の廃絶を実現した人物をめぐる一人芝居を観劇に。そして「偶然」にも、互いの国の言葉を解する、同じ名前の2人が出会う。
その長い夜、リスク管理や効率という正論の前には無力だと介護現場の苦悩を吐露したマリー=ルーに、真理がプレゼンさながらホワイトボードを駆使し、問題の来し方を詳らかにしようとするシーンが面白い。この現場に限った問題ではないはずだ。コスパやタイパの要請が正義になり、人を資本として扱うことに躊躇がない、いわゆるむき出しの資本主義の現状。「役に立たない」人は周縁化され、多くの人は人生の時間を盗まれるばかり。金や権力を独占する側と人生を盗まれる側とのシステムは、決定事項に思える。
それは社会の必然、問題視しても仕方ないとマリー=ルー同様、日々の用事に追われる皆が思う。だが死が近い真理は、鷹揚な構えで活路を探そうとする。残り時間がないから、未来を見ることができる、時間のかかる変化にも期待できるという逆転の妙。
ガチガチに固まった必然に、「偶然」や「急に」の扉が開かれるかもしれない。越境や往来が、システムを崩せるかもしれない。196分後に目にする景色は、明るい。
この映画の明朗には、初めてフランスで映画を撮った、濱口監督の自他ともに認める映画マニアの高揚も影響していると思えた。敬愛する映画を想起させる場面を、見つけることができるはず。その無邪気とも言える高揚が原作の放課後的ワクワクと共鳴した結果、この映画が、性に意味づけされる以前の若々しい官能性のようなものを帯びたのかもしれない。
この記事を書いた人
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