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『NORA』

OSHI-KATSU

「古典なのに今の話?」スマホ演出で鮮やかによみがった『NORA』の演出が凄まじい!

執筆者:伊達なつめ

演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、『NORA』をピックアップ。


スマホで会話を描く!? ライブな演出を見届けて

 古典作品を現代の観客にフィットするようアップデートさせる際、スマホを活用するのは常套手段のひとつ。映画やテレビドラマではスマホ画面の文字やスタンプによる会話はよく出てくるし、演劇作品においても、舞台上にスクリーンを出して文字が打ち込まれていく様子を映写したりする演出はめずらしくない。だから「イプセンの『人形の家』をスマホの会話で描く」と聞いても、さほど驚きはなかった。が、実際にリハーサルの様子を垣間見たら、「なんだこれは!?」とどえらい衝撃を受けてしまった。

 人形のようにただビジュアルが麗しく、主張を持たないことを父や夫に求められてきた若い女性ノラが、その扱いに疑問を抱き、自立を決意するまでを描く『人形の家』(または『ノラ』)は、約150年前に初演された名作。今回演出を担うロシア出身のティモフェイ・クリャービンは、かつて登場人物たちをろう者の設定にし、全せりふを手話で上演した『三人姉妹』で度肝を抜いた天才肌だけあって、やることが大胆だ。このとき見たシーンでは、舞台上のスクリーンに映し出されるスマホ画面はノラ(黒木華)、その古い友人クリスティーン(瀧内公美)、銀行の頭取になったノラの夫(勝地涼)の部下でノラの弱みを握るクログスタ(鈴木浩介)の3人のもの。ノラの夫に銀行をクビにされたクログスタはノラを半ば脅して復職を必死に請い、ノラは白を切ろうとするが結局その脅しに屈し、クログスタに代わって銀行への就職が決まったクリスティーンはノラにお礼メッセージを送るというやり取りが、LINEのチャットとボイスメールで表現される。このとき舞台上の3人の登場人物は、それぞれ別場所にいる。ノラはブティックを訪れ店員たちと談笑する合間にクログスタからのLINEに怯えつつ応答し、クログスタは小学校に娘たちを迎えに来てママ友と雑談する傍らでノラに切羽詰まったLINEを送っていて、クリスティーンは新しいスーツの試着中でその自撮りをフェイスブックにアップする意気揚々モードにいるという、三者三様の行動が同時進行している。さらに、スクリーンに反映されるチャットは各自がその場で自分のスマホに打ち込んでいるので、タイプミスまで含めてライブ感が半端ない。

 生身の俳優が出ているのにスマホの会話が全体の8割の演劇ってどういうことかと訝しく思っていたけれど、そうかこういうことかと、納得を超えて、クリャービンの才気に打ちのめされてしまった。スマホを持つすべての人が自分に重ねてハラハラするに違いない、超ヴィヴィッドな『人形の家』が出現する。

『NORA』

『NORA』
原作=ヘンリック・イプセン(『人形の家』) 演出=ティモフェイ・クリャービン 
ドラマターグ=ロマン・ドルジャンスキー
出演=黒木 華、勝地 涼、瀧内公美、鈴木浩介
石村みか、今井公平、越後静月、大滝 樹 、小幡貴史、木山廉彬、中野風音
天野叶愛、木根渕凛音、佐々木直輝、滝澤このみ、福元愛悠、師岡結月
7月15日(水)~26日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
(問)東京芸術劇場ボックスオフィス TEL:0570-010-296

文=伊達なつめ

※InRed2026年8月・9月合併号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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この記事を書いた人

演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。

X:@NatsumeDate
Website:http://stagecalendarcv19.com

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