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舞台『ハムレット』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!
執筆者:伊達なつめ
演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、舞台『ハムレット』をピックアップ。
高麗屋の家の芸!? 若き才能が主演に挑む
成立した時代が近いこともあってか、シェイクスピア作品を歌舞伎俳優が演じることは、昔からよく行われてきた。だから「市川染五郎のハムレット」と聞くと、松本白鸚が六代目市川染五郎だった1960年にテレビで演じたというハムレットを思い浮かべる層と、松本幸四郎が七代目染五郎だった1987年に初めて演じたハムレットのことを懐かしむ層、そして今年八代目染五郎が演じるハムレットを心に刻むことになる層と、俳優とともに観客のほうでも、三世代が共存することになったりする。
それにしても、歌舞伎の当り役を継承するだけでは飽き足らず、現代劇の俳優にとっても選ばれた資質を持つ者にしか機会が訪れないハムレット役を、親・子・孫と三代にわたって演じることができてしまう高麗屋(染五郎の家の屋号)のスター・ファミリー感は半端ない。
白鸚は十代のころからアイドル的人気を誇り、『王様と私』『ラ・マンチャの男』といったミュージカル界においても代表作を持つレジェンドで、『アマデウス』など現代劇でも評価が高く、テレビドラマでも主演作を持つスター中のスター。幸四郎は14 歳の時にハムレットを演じるという偉業を成し遂げ、『ハムレット』を歌舞伎化した『葉武列土倭錦絵(はむれっとやまとのにしきえ)』では英国公演も行った真正の「ハムレット俳優」。クリエイターとしてもアイデアマンで、江戸川乱歩やチャップリンの作品を歌舞伎化したり、ラスベガスの名物噴水を舞台に歌舞伎を上演したり、コロナ禍で劇場が閉鎖された際にはオンライン配信による「図夢(ずぅむ)歌舞伎」を企画・出演したりと才気に溢れ、現在の歌舞伎界を牽引するスターのひとりだ。
こんなすごい祖父や父を持つとプレッシャーでしんどいのではないかと思うのはたぶん杞憂で、孫の現・染五郎も、幼いころから観る者の瞳を星やハートにするマジカルパワーを備えており、それでいて浮つかず、冷静でマイペース。周囲がこうして「三代でハムレット!」と騒いでも、「(シェイクスピアということで括れば)高祖父の七世幸四郎から五代にわたって演じています」と、サラッと盛ってくるスマート・ガイだ。せりふの多さも、初現代劇初主演の初めてづくしも通るべき道程と、自然体で受け止めている様子が頼もしい。陰影に富む面差しがノーブルで、思考を深め気鬱気味のハムレットそのものではないかと、いま染五郎がハムレットをやらずに誰がやるのだと、説得力と期待は高まるばかり。ハムレットが高麗屋の家の芸になる日も近いかもしれない(!)。
舞台『ハムレット』
作=ウィリアム・シェイクスピア 演出=デヴィッド・ルヴォー 翻訳=松岡和子
出演=市川染五郎、當真あみ、石川凌雅、横山賀三、梶原 善、柚香 光、石黒 賢 他
5月9日(土)~30日(土) 日生劇場 ※大阪、愛知公演あり
(問)チケットホン松竹 TEL: 0570-000-489
文=伊達なつめ
※InRed2026年6月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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この記事を書いた人
演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。
X:@NatsumeDate
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