【4月・5月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー『来し方 行く末』、『ロザリー』
執筆者:InRed編集部
『ロザリー』の主人公は、普通を望むことができない。19世紀から20世紀初頭にかけフランスに実在した、髭の生えた女性の人生に着想を得た物語。
顎や胸や背中などが、体毛に覆われる。娘のロザリーのそういう体を隠して、父親は彼女を持参金目当ての男、カフェ店主のアベルに嫁がせた。アベルに拒まれながらも店を手伝うロザリーは、ある賭けをきっかけにひらめく。ヒゲのある姿で店に立ったら、客が増えるかも。「ヒゲの女性のカフェ」は実在した店名だ。
世間の好奇心を逆手にとって、「映え」で大成功。すると、アンチに批判され潰されそうに。この展開のみならず、現在にも続く問題を描こうとする狙いは、ステファニー・ディ・ジュースト監督に明白だ。自分を偽らず、コンプレックスに圧殺されず、見世物=客体になることを拒む。ロザリーの苦闘を人々が批判し、男たちがひねくれた欲情さえぶつけるのは、ヒゲが成人男性の性と権力を象徴するからでもある。
一方、夫のアベルは、男性性のもう一つの象徴である戦争で、痛手を負った身として描かれる。哀感たっぷりに演じるブノワ・マジメルがいい。男性性の呪縛にとらわれ、自由を奪われているのは男も女も同様なのだ。ロザリーがずっと祈りを捧げてきたのは、聖ウィルゲフォルティス。中世から信仰されてきたこの聖人を重ねて、物語は愛を描くに至る。
ラストが美しい。滑稽な昔話のように始まり、訓話におさまらず、ロマンティックに沈んでいく。
『来し方 行く末』
23年 中国 119分 監督・脚本:リウ・ジアイン 出演:フー・ゴー、ウー・レイ、チ―・シー、ナー・レンホア、ガン・ユンチェンほか 4/25(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
©Beijing Benchmark Pictures Co.,Ltd
『ロザリー』
23年 フランス・ベルギー 115分 監督・脚本:ステファ二ー・ディ・ジュースト 出演: ナディア・テレスキウィッツ、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ、ギヨーム・グイ、ギュスタヴ・ケルヴェン、アンナ・ビオレ 5/2(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©2024–TRÉSOR FILMS–GAUMONT–ARTÉMIS PRODUCTIONS
おすすめ記事
- 1
- 2
文=町山広美
放送作家。担当番組に「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」など。5/17に青森県で開催される「あさ虫フェス」に出演。
イラスト=小迎裕美子
※InRed2025年5月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
※画像・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください。
KEYWORD
この記事を書いた人
「35歳、ヘルシーに!美しく! 」をテーマにしている雑誌『InRed(インレッド)』編集部。 “大人のお洒落カジュアル”を軸に、ファッションや美容はもちろん、ライフスタイル全般を網羅。公式ウェブサイト『InRed web』ではライフステージの変化の多い世代ならではの、健康、お金・仕事、推し活に関する情報を発信。お洒落で楽しい毎日に役に立つヒントをお届けしています。
X:@InRed_tkj
Instagram:@inrededitor