演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!ミュージカル『おとこたち』
InRed本誌のステージ連載を担当する、演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、3月上演のミュージカル『おとこたち』をピックアップ。
伊達なつめ
演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。世界ステージ・カレンダーwithコロナ http://stagecalendarcv19.com
ミュージカルへの認識がアップデートされる!?
むかしよく言われた「ミュージカルは急に歌い出すから不自然」説でミュージカルを嫌う人って、いまだに存在するんだろうか。2000年代に入って、『シカゴ』(02)のヒットを皮切りにブロードウェイやロンドン・ウエストエンドで上演された人気ミュージカルがハリウッドで映画化される件数はグッと増えたし、歌と踊りがMUSTのボリウッド映画は、すでに市民権を獲得。日本でも2.5次元ミュージカルのライブエンタメ界における存在感は圧倒的だし、ミュージカル界のスターがテレビドラマに登場することも、今やごくふつうだ。時代はすっかり、ミュージカルを受け入れている。
これはひとつには、急に歌ったり踊り出したりするという趣向を受け入れる、鑑賞する側の成熟度の表れだと思う。が、もうひとつ声を大にして言っておきたいのは、そもそも優れたミュージカルは、観客に不自然さを感じさせずに、歌ったり踊ったりするものなのだ、ということ。幸い、近年のミュージカル・ブームで、日本でもミュージカル界だけでなく、現代演劇界で緻密なせりふ劇を手がけてきた劇作家や演出家がミュージカルに挑戦することが増えており、ドラマ部分が充実し、せりふからメロディーへの流れにも、繊細な配慮が行きわたるのがデフォルトになってきている。さらにそうした人材のジャンル的広がりによって、王道のブロードウェイ・ミュージカルや重厚なコスチューム・プレイ系などのフォーマットから解放された、自分たちのカルチャーと感性を活かした、等身大の音楽劇も誕生している。
『おとこたち』は、自らの引きこもり体験をベースに家族間の違和や軋轢をオモ鋭く表現してきた岩井秀人(脚本・演出)の代表作で、2014年にせりふ劇として初演された。エリートコースを歩む営業マン、就職はしないが不倫はするチャラ男、そこそこ売れてる三枚目系俳優、ネガティブ・オーラを放つクレーム担当正社員。同世代の男友達4人の20代から80代までの人生を、それぞれ悲しいほどリアルに、笑うしかないほど切なく活写して、当時NHKの「クローズアップ現代」で取り上げられるほど話題になった。この珠玉の佳品を、新たなキャストにより、ミュージカル仕立てにするという。吉原光夫のようにガチのミュージカル俳優もキャスティングされているけれど、岩井の意図を知り尽くす前野健太による楽曲は、ため息やつぶやきをそのまま語るように音符に乗せて、ミュージカルの定石を覆してくれそうだ。いまだに苦手意識を持つ人にも、ぜひこういう作品を観て、ミュージカルへの認識をアップデートしてほしい。
ミュージカル『おとこたち』
脚本・演出=岩井秀人 音楽=前野健太
出演=ユースケ・サンタマリア、藤井 隆、吉原光夫、橋本さとし、大原櫻子、川上友里、梅里アーツ、中川大喜
演奏=佐山こうた(ピアノ)、種石幸也(ベース)
3月12日(日)~4月2日(日) PARCO劇場
※大阪、福岡公演あり
(問)パルコステージ ☎03-3477-5858
文=伊達なつめ
※InRed2023年4月号より。情報は雑誌掲載時のものになります
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