『レイディマクベス』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!

レイディマクベス

演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、『レイディマクベス』をピックアップ。


リアルで共感必至!? 新しいマクベス夫人像

 恐妻家だったとか、ミソジニー(女性嫌悪)的発想の持ち主だったとか。シェイクスピアについては、8歳年上の女性と妊娠がわかってから結婚した実生活や、作品に登場する女性の扱いの悪さや少なさを根拠に、〝潜在的に女性のことが嫌いだったに違いない劇作家〟とdisられることが少なくない。シェイクスピアが活躍した16世紀後半~17世紀の社会状況を考えれば、圧倒的な男性中心主義の下、女性は貞淑であることのみを求められるような世の中だったわけだから、単に当時の世間の常識や、王室の事情などに配慮しつつ書いていただけのことかもしれず、だとしたら、とんだとばっちり。が、これも時代を超えて上演され続ける魅力的な作品を書いたからこそ受ける批判ではある。総じて古典作品には、普遍性はあっても現代にそぐわない要素が散見されるもので、そこを作家のせいにせず、納得のゆくようにクリアしてみせるのが、現代のクリエイターに課せられた使命というものだ。
『マクベス』の主人公マクベスは、魔女に「王になる」と予言され、それを打ち明けた妻に、さらにけしかけられて、主君である王を殺害。以後は権力を維持するための強迫観念に囚われて殺戮を重ね、自滅の道をひた走る。気弱なところがある夫を鼓舞して王を殺させるマクベス夫人は、夫以上の野心家で気性も激しく描かれており、典型的な〝悪女〟の烙印を押されがちなキャラクターでありながら出番は少ないという、女であることを都合よく使われている感が否めない役だ。たとえジェンダー・ギャップ指数125位の日本での上演とはいえ、いや、そんな悲惨な国での上演だからこそ、女性への偏見や差別を克服したマクベス夫人像を提示することが必要だ。
『レイディマクベス』のクリエイター陣は、マクベス夫人=レイディマクベスは、もともと戦場で指揮を執る優秀な軍人で、マクベスとは同僚として出会い、結婚して出産のために現場を退いた女性、というバックグラウンドを設定した。産後に体調を崩して職場に復帰できず、キャリアを断念した悔しさが、順調に出世してゆく夫への愛ある檄となり、同時に自身の野心を託す希望でもあるために、何かと前のめりになってしまう、というわけだ。 なんとリアルな事情だろう。エキセントリックに見える彼女の言動の理由が、痛ましいほど理解できてしまうではないか。そのうえ夫は戦場でのPTSDに悩み、子どもは母のキャリアを潰したのは自分と考え、心を閉ざしている……。いちいち共感せずにはいられないマクベス夫人が出現しそうで、胸が高鳴る。

レイディマクベス

作=ジュード・クリスチャン 演出=ウィル・タケット
出演=天海祐希、アダム・クーパー、鈴木保奈美、要 潤、宮下今日子、吉川 愛、栗原英雄
10月1日(日)〜11月12日(日) よみうり大手町ホール
(問)TBSチケット https://tickets.tbs.co.jp/tbs/toiawase/
11月16日(木)〜27日(月) 京都劇場
(問)キョードーインフォメーション TEL0570-200-888

文=伊達なつめ
演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。世界ステージ・カレンダーwithコロナhttp://stagecalendarcv19.com

※InRed2023年10月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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