ライター黒田の海外生活in デンマークVol. 7
「“今さら留学”にデンマークを推したい3つの理由」

執筆者:黒田英利

さらに「パフォーミングアーツ」をおすすめしたい理由

 先ほど書いた通り、私は舞台や演劇が元々好きだったのでこの科目を選んだのですが、実際に学んでみて、これは英語の勉強にも、自分をより理解するためにも、人前に立つ練習としても、いいことづくめでは?と感じました。この分野について考えたこともないという人にこそ少しでも知ってもらい、興味を持ってもらえたら嬉しいです。

“英語で伝える”練習をたくさんできる

とある日の授業風景。椅子に座ったり床に座ったり、自由な雰囲気。

 英語の授業がある訳ではありませんが、舞台を作る前のワークショップや、演技のエクササイズが、そのままスピーキングの練習状態でした。例えばチームごとに舞台を作るプロジェクトでは、テーマを決めるために「人生の価値とは」についてディスカッションを繰り返したり、演技のエクササイズでは、目の前に座った人と3分間、昔からの友達の設定で「あの時こんなことあったよね」「そうそう、それでさ〜」と即興でストーリーを繋げたり。うまくいかず落ち込む日もありましたが、誰かが助け舟を出してくれたり、理解しようと頑張ってくれたりして、なんとか乗り切った思い出です。あとは英語の台詞の練習が、そのまま発音の練習にもなりました。私の発音はネイティブとは程遠いため、先生や友達がたくさん特訓してくれたのが本当にありがたく、今も印象に残っています。

体も心も動かして、言葉以外で伝えるスキルが身に付く

体育館で何かのアクティビティをしていた時の一コマ。

 授業はメイン科目の他に、ダンスやヨガ、合唱などの授業もありました。ダンスは振り付けの説明が英語だったり、ヨガは感じたことを話し合う時間があったり、合唱は英語の歌詞が難しかったり、ということはもちろんあったものの、基本的に言葉ではなく体を使うので、その間は一瞬苦しい英語修行から解放されたようで、とても楽しくリフレッシュできました。

 また一番印象に残っているのは「フィシオドラマ」という授業。感情表現にフィジカルな側面からアプローチするというもので、最初は戸惑いました。目を閉じて呼吸のエクササイズ、音楽に合わせて体を動かすウォーミングアップを行った後、悲しみ、怒り、喜びなどの感情を訪れて、それを表現する。文字で書くとすごく難しそうなんですが、先生が「怒り」と言ったら、なんとなく自分の中で怒るムードになって、例えば持っているブランケットを床に叩きつけたり、怒りの言葉を口に出したりして、そこから本当に怒りの感情を引っ張り出すという感じ。これができるようになってくると、自分の感情をコントロールするのが上手になって、日常生活で例えば感情表現が苦手だけどストレスが溜まっている人が、一人になった時に発散しやすくなったり。パフォーマンス的に、「多分こういうのが求められているのかな?」とやるとすぐに先生にばれて、「人に見せるためではなくあくまで自分に忠実に、リアルに徹して!」と注意を受けたのが興味深かったです。後期はこれを応用して、配布されたよく意味のわからない対話の台詞を、チームごとにそれぞれの表現で演じてみせるという授業に。それぞれの受け取り方次第でこんなにも違うものに仕上がるのか!というのがおもしろく、また言語に関しては劣勢だった自分でも、自由に表現して周囲からのレスポンスを得られるのが嬉しくもあった時間でした。

人前で何かを披露する度胸がつく

定期開催される、参加自由、なんでもありの「オープンステージ」で、ミュージカルの1シーンを披露する2人。

 パフォーマンスを学ぶ場所ではあるので、みんなの前で何かをする機会は多く、私はいつもガチガチに緊張していました(笑)でもそれはみんな同じなのが心強くもあり、何度もそういうシーンがあったのは、今後の人生にも生きる経験になったと思います。

 具体的にいうと、日々の授業の中のワークショップで何かをするのはもちろん、テストの代わりに学期を通して行う3つのシアタープロジェクトは、全て最後にゲストを招く発表会がありました。そして授業外では「オープンステージ」という催しが定期的にあり、自由参加で各々エントリーし、やりたいことを披露するなんでもありのステージ。ソロで弾き語りする人、デュエットでハモる人、楽器を演奏する人、踊る人、自作の詩を披露する人、本当にそれぞれで、毎回観客として本気で楽しんでいました。マイクやライティングがある本格的なステージングにビビり、私は挑戦できませんでしたが、先生が提案して始まった「キャンドルライトコンサート」は、マイクがないのと、少しカジュアルなムードもあって2回ほどチャレンジ。人前でピアノ伴奏の中歌うのはカラオケとは訳が違って、久しぶりに膝が震えましたが、やり切った後の爽快感、得られる拍手は何物にも変え難い......と思います。さらに終わった後は毎回お互いのパフォーマンスについてフィードバックし合う(というか褒め称え合う)時間が自然とあって、とても満たされた気持ちに。観る側はとにかく全力応援スタイルなので、失敗しても挑戦したことが素晴らしい!と背中を押すムードが私は大好きでした。

 何よりこれ、ど素人の私が日本だったらまず挑戦しないと思うのですが、遠くデンマークという土地で、どうせ誰も見ていない的な思い切りの良さを持てるのも留学ならではだなぁと思ったりします。あといろんなことにトライする人を見て、純粋に刺激ももらいました。特に「詩を書く」って、日本人はあまり馴染みがないと思うのですが、堅苦しく考えず、私もラフに気持ちを綴ってみたいと思いました。

“自分のキャラクター”をぶち破る機会がある

 18〜20代前半の若者が大半なので、本当にいろんな人がいます。セクシュアリティが異なる人が多いのはもちろん、性格もいろいろ。いつもうるさいのにたまに泣いていてメンタルが心配になるギャル、仲良し以外には威圧的な態度で怖い女子、自分の世界を持っていて近寄り難い人、私はというともちろん“優しい日本人”となる他ないというか(笑)でも舞台の中ではそんな現実は関係なくて、その時々のキャラクターとして振る舞える時間がなんとも楽しかったです。例えばコメディの時は、どうすればおもしろくなるか、外国人に笑ってもらえるか、すごく考えました。厳しい先生の役をやった時は、学校のお調子者たちを怒鳴りつけることができてなんとも気持ちよかった。そしてそういう舞台上のやり取りの中で、本来の自分のパーソナリティが相手に少しずつ伝わって、こちらも表面的に見ていた相手の内面を垣間見て、お互いをより深く理解し合えたような気がします。これは観客側の視点しかなかった自分には新しい発見となりました。

最後のシアタープロジェクト『春のめざめ』の配役発表の時の様子。この時のみんなの緊張感、発表された後の悲喜こもごもな反応は忘れられない。

文化祭的な青春をもう一回味わえる!

『春のめざめ』終演後の集合写真。どうなるかと思ったこともたくさんあったけど、形になって感動。

 私は文化祭や合唱コンクールが好きな学生でした。クラスのみんなで一つのことに向かって全力で頑張る!こういう体験は社会人になるとなかなかできないことだと思います。私の学校ではテストの代わりに発表会が3回あって、それに向かって練習するのとは別に、みんなで舞台のセットや衣装、小道具を準備したり、設営したり、共同作業もたくさんありました。まさに文化祭!最後のパフォーマンスが始まる前の円陣と掛け声は、なんとも青春すぎてアラサーの私がここにいていいのかしらと思いながらも目頭が熱くなりました。こんな胸熱体験ができて、それだけで行った甲斐があったな〜と思います。

 フォルケは上記に挙げた以外にも、半年という短期間で行ける、費用を英米の語学学校などに比べ安く抑えることができるなどメリットはたくさん。ただ、朝から夜まで逃げ場のない田舎で同じメンバーと顔を合わせることになるので、時に息苦しさを感じることもあったし、私自身アラサーでマインドも若くないのでパーティにうんざりしたりということも。幸い私の学校は自由参加なのでよかったですが、パーティ文化は学校によっていろいろだと思うので、苦手な人は下調べをした方がいいかもしれません。

 また長く堅苦しい記事になってしまいましたが、社会人になってからの留学に興味がある人の参考になっていればいいなと思います。人それぞれいろいろな経験をする留学だと思いますが、私は行ってみて、学びだけに集中できる学生時代って、なんて貴重なんだと改めて痛感するとともに、自分の人生にとっての“夏休み”のような、忘れられない大切な時間になりました。

ではまた次回! Vi ses!

※画像・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください。

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この記事を書いた人

くろだ えり/大学卒業後、InRed編集部で10年エディターとして勤務し、2024年1月からデンマークでの生活をスタート。ライターとしてはまだまだ駆け出しですが、ミーハー魂で頑張ります!

Instagram:@erikuro21

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