【安藤サクラ】映画『怪物』のこと、お洒落心について、30代のいま思うこと。

映画『怪物』が話題の俳優・安藤サクラさん。年齢を重ねシンプルに生きられるようになったと話す彼女に、「昔からずっと変わらない」というお洒落心と、30代真っ只中にある今の心境、映画『怪物』について伺いました。

PROFILE
1986年2月18日生まれ、東京都出身。2007年、映画『風の外側』でデビュー。主な出演映画に『百円の恋』(14)、『万引き家族』(18)、『ある男』(22)、主演ドラマに連続テレビ小説「まんぷく」(18-19/NHK総合)、「ブラッシュアップライフ」(23/日本テレビ)など。主演映画『BAD LANDS バッド・ランズ』が9/29公開予定。

好きなものは、ずっと好き。愛着のある服を長く大切に

 圧巻の演技力で、俳優として揺るぎない存在感を放っている安藤サクラさん。メゾン マルジェラを纏ったファッションシューティングでは、多彩な表情と自由なポージングで、アートワークのような独自の世界を創り出してくれました。その着こなしは私服のようにこなれていますが、それもそのはず、普段もよく着るブランドだと話します。
「ハイブランドものや新しい服を頻繁に買うタイプではないのですが、マルジェラは普段も、大切な日にも身につけたいと思うブランドです。デザインに変革を感じますし、1着1着が作品のような印象です。これから年齢を重ねた時に、より一層似合うような大人でありたいです」
 そう楽しげに語る安藤さんも、今年で37歳。年齢とともにファッションとの距離感が変わることもありますが、彼女自身は「昔から全然変わらない」と笑います。
「ずっと同じ服を着ているから、変われないんです。気に入ったものを15年以上着るパターンが多いかな。小学生の頃のTシャツをいまだに愛用していますし、父のおさがりもよく着ます。古着も大好きで、好みのものに出合ってしまうとつい買ってしまいます。自分流に着こなそうという意識は全然なくて、自分にとって心地いい服を着ているだけなんです。それが、周りから見たら私らしく映るのかもしれませんね。自分自身の″今”にピントを合わせて生きているので、流行に乗るキャパシティはないんですよね、私の人生に。だから、クローゼットには、流行に左右されない服しかありません」
 何にもとらわれず、好きなようにファッションを楽しむ姿は、まさに大人の憧れ。そんな彼女がお手本にしているのは、映画の中のファッションだとか。
「海外の作品や昔の映画を見ていて、通りすがりの人の着こなしにときめいたり、真似したいと思うことが多いですね。実は、今の髪形は『グッド・ウィル・ハンティング』のウィル役を演じたマット・デイモンを意識したんです。ウィルが着ているTシャツもいい感じで。ファッションも映画もカルチャーだから、そこに触れた時に憧れみたいなものが見つかる気がします。自分にフィットするのは、だいたい少年か、おじさん。あ、でも、K-POPアイドルを見ていると、無駄におへそを出したくなりますね。試したことはないですけど(笑)」

 プライベートでは子育て真っ最中でもあり、多忙な毎日を送っているはず。それでも、明るくのびのびとした印象を受けるのは、彼女の心が自由だから。
「年齢を重ねてどんどんラクに生きられるようになりました。自分の目標に近づける経験と術をやっと頭の中で整理して、次の目標に向かって具体的に進めるように。無駄なストレスや不安を持たないで、シンプルに生きられるようになってきたと実感します。楽しみですよ、40代、50代が」
 かつては、目標も自分の趣味もなく、自分が何者かもわからず、鬱々としていた時代もあったといいます。
「目標に向かって努力する時間はすごく好きなんです。仕事では″役”を与えていただけるので頑張れるんですが、自分のこととなると、趣味もないし、目標も見つけられたことがなくて……。やってみたいことがぼんやりと見えてきても、他のことを優先したり、あれこれ考えてしまって、シンプルに向き合うことができなかったんです。だけど、今なら、これからはもっと、自分がこうなりたいと思っていた目標を、具体的に掲げられるなと。中学生の頃から憧れていたバク転ができるようになりたいとか、ジャンプ力を高めたいとか、語学を学びたいとか。経験値が上がっている分、自分に合ったやり方を見つけられるから、ゴールに近づくのが早い気がするんです。50代までに叶えるなら20年ありますし、できるようになる気しかしません」 

最新の出演映画『怪物』では11歳の少年の母親役を熱演

 最新出演作は映画『怪物』。『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた是枝裕和監督が、「今一番リスペクトしている」と語る脚本家の坂元裕二さんと初タッグ。音楽は3月に他界した坂本龍一さんが手掛ける注目作。安藤さん自身、是枝監督と組むのは『万引き家族』に続いて2作目。本作では11歳の息子・湊を育てるシングルマザー・早織を熱演しています。
「主人公である息子の湊とクラスメートの星川くんを、どう助演できるかが課題でした。私の娘とは性別も年齢も違うので、その年頃の男の子の母親像を監督に確認しながら進めました。自分のパート以外の台本は薄目で読んで、真実はどうかとか、他の人の立場や心情はさておき、母親としての気持ちに集中するようにしていました。現場はすごく和やかで、撮影の時も、それ以外の時でも、監督といろんな話ができて楽しかったです」
 完成した作品を見た時に、自分が出演していることも忘れて大号泣したと明かします。
「二人の子どもたちの輝きに心が震えて、涙が止まりませんでした。脚本を読んだ時には、今までの是枝監督の映画をイメージして、今までの坂元さんの作品で感じたリズムで読んでいました。現場で撮影していた時間や脚本を読んだ印象、私が想像していたものとは全然違って、別次元のものでした。是枝監督は、出演者の人間性の魅力を最大に活かす力があるのだと思います。″役をつくる”のではなく、物語の中で生きていく道を探してもらっている感じです」

『怪物』

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。そんなある日、学校でケンカが起きる。彼らの主張は食い違い、次第に社会やメディアをも巻き込み大事になっていく。そしてある嵐の朝、子どもたちは忽然と姿を消した。いったい「怪物」とは何か。登場人物たちの視線を通した「怪物」探しの果てに、私たちは何を見るのか―。現在、全国の映画館で絶賛上映中。完全ノベライズ版(小社刊)も必読。 ©2023「怪物」製作委員会

Photograph=Takako Noel Styling=Shinichi Sakagami〈ShirayamaOffice〉 Hair=Amano Make-up=Kanako Hoshino

※InRed2023年7月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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