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『未練の幽霊と怪物―「挫波」―』(2021)より photo=Yurika Kono

OSHI-KATSU

『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!

執筆者:伊達なつめ

演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、『未練の幽霊と怪物 ―「珊瑚」「円山町」―』をピックアップ。


能の構造で紡がれる、ついえた夢が共感を誘う

「もののあはれ」とか「判官びいき」(勝者〈の頼朝〉より敗者〈の義経=判官〉に共感すること) など、強く明解なものよりも、弱くはかなく、不幸な運命を背負ったもののほうに心惹かれる私たち。西洋の感覚だと、そこから劣勢を克服して強くなるまでがワンセットになりがちだけど、日本は敗れたまま、哀しいままを提示して、そこに「美」を見出そうとする。芸術的観点からすると、なんとも繊細でハイコンテクストな文化よのお……と、改めて感心してしまう。古典文芸だと『源氏物語』や『平家物語』、舞台では能が、その代表格だ。

 主人公は、戦闘に負けた武将から男に裏切られた一般女性、鬼や神や動植物の精までさまざま。前半はふつうの人間の姿で現れ、通りかかった旅行者(多くは僧侶)にその地で起きた出来事や自分の身の上を語り、後半は、実は幽霊や何かの精など超現実的な存在である正体を明かした姿で登場。過去の麗しい思い出や、悔恨や未練や苦しみなどを舞と歌に託して吐露すると、消え去ってしまう。これが典型的な構造パターンで、まるで旅行者の見た夢か幻想のようなので「夢幻能」と呼ばれている。

 岡田利規は、このフォーマットに忠実に従ってみることで、オリジナルな新作シリーズを誕生させた。第1弾は、東京オリンピックを前に国立競技場の設計デザインを反古にされ間もなく逝去したザハ・ハディドが登場する『挫波』と、稼働しないまま廃炉になった高速増殖炉もんじゅが擬人化され嘆く『敦賀』(2021)。第2弾の今回は、辺野古の米軍基地移設工事のせいで生息できなくなったサンゴがテーマの『珊瑚』と、1997年に実際に起きたある事件をモチーフにした『円山町』。いずれも失意のうちに命を落とした主人公が、想いの溜まった地で、生者の前に化身と本性の二段階で現れる夢幻能形式だ。みな個々の体験であるとともに、現代日本社会の歪み、政治の不作為の犠牲者であることが明示されていて、サラッとしながら実にアクチュアルで批評的な内容。せりふや詞章も驚くほど具体的で、社会背景などがイヤホンガイド並みにていねいに説明され、わかりやすいこと半端ない。いくら現代語でダイレクトに語っても、音楽と舞が言葉と等分の存在力を発揮する研ぎ澄まされた能の堅固なフォーマットのせいで、あざといことにも薄っぺらいことにもならない点が肝だ。

 夢破れた亡き者に共鳴するDNAを持った観客を揺さぶる、コンテンポラリーな能のかたちと言えるかもしれない。

『未練の幽霊と怪物―「挫波」―』(2021)より photo=Yurika Kono『未練の幽霊と怪物―「挫波」―』(2021)より photo=Yurika Kono

『未練の幽霊と怪物 ―「珊瑚」「円山町」―』
作・演出=岡田利規 音楽監督=内橋和久
出演=アオイヤマダ、小栗基裕(s**t ki ngz )/
石倉来輝、七瀬恋彩、清島千楓/
片桐はいり
謡手=里アンナ 演奏=内橋和久
2月13日(金)~3月1日(日) KAAT 神奈川
芸術劇場 〈大スタジオ〉 ※兵庫、新潟、京都公演あり
(問)チケットかながわ TEL:0570-015-415

文=伊達なつめ

※InRed2026年3月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
※画像・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください。
※地震や天候などの影響により、イベント内容の変更、開催の延期や中止も予想されます。詳細はお問い合わせ先にご確認ください。

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この記事を書いた人

演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。

X:@NatsumeDate
Website:http://stagecalendarcv19.com

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