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『 スリー・キングダムス Three Kingdoms』

OSHI-KATSU

『 スリー・キングダムス Three Kingdoms』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!

執筆者:伊達なつめ

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演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、『 スリー・キングダムス Three Kingdoms』をピックアップ。


英国演劇界の奇才による衝撃作が、日本初演!

 現代英国を代表する劇作家サイモン・スティーヴンスの未上演戯曲が日本で“世界初演”されたのは2020年、森田剛主演の『FORTUNE』だった。バリバリ現役の世界的人気作家が温存していた作品をワールドプレミアできるなんて、日本演劇界にとってまさにフォーチュン(幸運)だったわけだけど、制作発表時に来日したスティーヴンスは、想像もしなかったこの展開について「『スリー・キングダムス』以来の興奮だ」と、「幸運なのはこっちだ」と言わんばかりの高揚感を示していたのが印象的だった。あれはあながちリップサービスではなく、本心でそう思ったのだろうなと、ついに『スリー・キングダムス』が日本で上演されることになった5年後の今、改めて感じている。

 孤独や焦燥や愛の不確実性を、社会の空気をしのばせながらナチュラルな会話で、かつ、時にリアリズムから飛躍した大胆な方法で表出するスティーヴンス。2000年代に入りドイツの演出家セバスティアン・ニューブリングと共働したことをきっかけに、戯曲を思いきり自由に解釈したり解体したりするドイツ語圏の演劇文化に刺激を受け、元から狭くはなかった視野をさらに広げていった。その過程で生まれたのが、『スリー・キングダムス』だった。

 ロンドンで発見された東欧人らしい女性の死体の犯人の手かがりを求めて、イギリスの刑事がドイツのハンブルクと、エストニアのタリンへ捜査の旅に出る。国際的な人身売買のシンジケートや、東に行くにつれ広がるヨーロッパの経済格差、その犠牲になる女性たち、言語と文化の壁……。次第に刑事らはカオスに飲まれ、当事者と非当事者の境も曖昧になってゆく。

 初演(2011)はイギリスとドイツとエストニアによる国際共同制作。三つの国の俳優の共演による多言語・多文化の多様性や違和を前面
に押し出す、多難でチャレンジングな上演だった。スティーヴンスにとって東京での『FORTUNE』初演は、その時のスリリングな異文化&言語体験を彷彿させるものだったのに違いない。

 本邦初演の『スリー・キングダムス』演出を手がける上村聡史は、ロンドンで初演を観て以来、この作品の上演を切望していたという。スティーヴンスと対談した際にその構想を尋ねられ、英国を日本、ドイツを韓国、エストニアをロシアに置き換えるアイデアを語っていたけれど、熟考の末、今回は原作戯曲(翻訳:小田島創志)のまま上演することに。おそらく作品の持つ強靱な普遍性が、置き換えを不要にしたのだろう。同一言語による三つの文化圏の表現は、演出の腕の見せどころだ。

『 スリー・キングダムス Three Kingdoms』

『 スリー・キングダムス Three Kingdoms』
作=サイモン・スティーヴンス 
翻訳=小田島創志 演出=上村聡史
出演=伊礼彼方、音月 桂、夏子、佐藤祐基、竪山隼太、坂本慶介、森川由樹、鈴木勝大、八頭司悠友、近藤 隼、伊達 暁、浅野雅博
12月2日(火)~14日(日) 新国立劇場 中劇場
(問)新国立劇場ボックスオフィス ☎03-5352-9999

文=伊達なつめ

※InRed2025年12月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
※画像・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください。
※地震や天候などの影響により、イベント内容の変更、開催の延期や中止も予想されます。詳細はお問い合わせ先にご確認ください。

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この記事を書いた人

演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。

X:@NatsumeDate
Website:http://stagecalendarcv19.com

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