ミュージカル『LAZARUS(ラザルス)』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!
執筆者:伊達なつめ
演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、ミュージカル『LAZARUS(ラザルス)』をピックアップ。
伝説のロックスターの鋭い感性に脱帽!
デヴィッド・ボウイの大回顧展「DAVID BOWIE is」が日本で大きな話題になったのは、2017年。その人となりや芸術性を語るうえで示されたものの多様さとクオリティの高さに圧倒され、音楽やファッションのみで彼を語ることが、いかに矮小で不完全かを思い知らされたものだった。実はその約1年前に、演劇におけるボウイの審美眼に感服していたので、より実感が深まったのかもしれない。それがニューヨークで見た『ラザルス』だった。
『ラザルス』はボウイ自身もその制作に深く関与した作品で、2015年12月世界初演日のニューヨーク公演のカーテンコールには、自身も登場。翌2016年1月8日のボウイの誕生日にリリースされたアルバム『★』からも数曲が使用されているミュージカルだ。デヴィッド・ボウイの最新作によるミュージカルともなれば、ブロードウェイで大々的に上演してもよさそうなところだけれど、この初演が行われたのは、200席に満たないニューヨーク・シアターワークショップという小劇場。実験性に富むアグレッシブな作品を世に問う場として有名で、後に社会現象にまでなったミュージカル『RENT』もここで生まれている。商業主義とは一線を画す先鋭さがいかにもボウイ的だし、脚本も、孤独や焦燥、閉塞感や死生観を、削ぎ落とした詩的な世界観で表現するエンダ・ウォルシュを、ボウイが指名した。演出を担ったベルギー出身のイヴォ・ヴァン・ホーヴェも、今でこそブロードウェイの常連ながら、当時はまだヨーロッパでの名声がニューヨークに届いているとはいえない状態だった。要するに、一般的な感覚でみれば実にマニアックなクリエイティブ態勢であり、演劇愛好者からすると「さすがデヴィッド・ボウイ、お目が高い!」と唸らずにはいられないセンスの公演だった。
『★』リリースの2日後の1月10日にボウイの死去が伝えられ、アルバムと当時まだ上演中だった『ラザルス』は、その遺作となった。舞台はボウイがかつて主演した映画『地球に落ちて来た男』(1976)の後日談というべき内容で、 “地球に落ちてきた”異星人ニュートンが、数十年後の現在も地球に居続け、内省的に自己と対峙しながらここではない場所――家族のいる故郷、あるいは死だろうか――を追い求める姿が描かれており、ボウイの遺書とみなされている。
その後も世界各都市で上演されていて、日本ではエンダ・ウォルシュ作品を多く手がけ、音楽劇でも定評ある白井晃の演出という理想的な形が実現。ボウイの研ぎ澄まされた才気を、精確に受け取ることができそうだ。
音楽・脚本=デヴィッド・ボウイ 脚本=エンダ・ウォルシュ 演出=白井 晃
出演=松岡 充/豊原江理佳、鈴木瑛美子、小南満佑子/崎山つばさ、遠山裕介/栁沢明璃咲、渡来美友、小形さくら/渡部豪太、上原理生 他
5月31 日(土)~6月14 日(土) KAAT 神奈川芸術劇場〈 ホール〉 ※大阪公演あり
(問)キョードー東京 ☎0570-550-799
文=伊達なつめ
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この記事を書いた人
演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。
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