【1月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー
『おんどりの鳴く前に』、『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

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InRedの長寿映画連載「レッド・ムービー、カモーン」。放送作家の町山広美さんが、独自の視点で最新映画をレビュー。

人が浮世をつくり浮世が人をつくる

 トランプが大統領に初当選した時、「巨大な田舎」としてアメリカを解説する声は多かった。さてその前に、欧州最後の秘境ともいわれるルーマニアの、端っこにある村のお話を。『おんどりの鳴く前に』は、村のおじさん警官、イリエが主人公だ。人の輪郭がもはやカスれてるほどのしょぼくれっぷりで、笑える不幸を予感させ、まんまと観客を引き込む。  

 そこへ新人警官が赴任、さらには殺人事件が起こる。都会が舞台なら、タフな警官バディものが展開される道具立てだが、ここは田舎だ。新人の熱意は疎まれ、日常を荒立てる「真実」や法律よりも、村には大事なものがある。村長と司祭、村の権力者2人が仕切ってきた闇のシステムに、イリエものみ込まれていた。余計な詮索はしない、状況に控えめに寄り添うのみ。 

 正義は枯れ果てた。浮世の欺瞞、家族も持てない不運に打ちのめされ。でも、果樹園を持つ夢が彼を温めていたし、叶いそうにない夢が枯れないのは何かが水を与えているから。その何かが彼を、意外な結末へ運んでいく。 

 パウル・ネゴエスク監督は、遅くトボけた味わいのアクションなど、間合いの取り方を心得ている。イリエがある子どもを泣き止ませようと、話し聞かせた、作り話。ただの出まかせと思えたその作り話の世界が、鮮やかに引き寄せられるラストがかっこいい。彼は、恩寵に接続したのだ。

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