演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報! ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』
InRed本誌のステージ連載を担当する、演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』をピックアップ。
伊達なつめ
演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。世界ステージ・カレンダーwithコロナ http://stagecalendarcv19.com
演劇への愛に満ちた物語を日本キャストと新演出で
作品は作者の分身というけれど、『ピーターパン』と作者ジェームズ・バリの場合は、その人生が多くの逸話によって知られていて、読者や観客の興味をより引きつけているところがある。スランプ中だったバリが、公園で出会った一家の子どもたちと冒険ごっこをして遊んだ体験から『ピーターパン』が生まれたとか、その子どもたちのうちのひとりの名前がピーターだったとか、ピーターたちの両親が相次いで病死してしまい、バリは妻の浮気が発覚して離婚。その後はピーターたち兄弟の親代わりとなって成長を見守っていたが、戦争や不慮の事故により、そのうち2人の子どもに先立たれてしまったとか……。さらに少年時代に経験した兄の死と、そのショックに起因する母からのネグレクトなど、大人にならないことを選ぶ少年の物語の背景として、こんなにドラマティックな実話があるだろうかというほど、シビアな現実を抱えて生きた作家だった。
『ファインディング・ネバーランド』は、そんなバリの人生のうち“『ピーターパン』誕生秘話”にかかわる部分を描いた戯曲をもとに、まずはジョニー・デップ主演の映画『ネバーランド』(04)ができ、続いて英国で一度ミュージカル化された後、14年にアメリカで音楽以外のクリエイティブ・スタッフを一新したリニューアル版が誕生、15年にマシュー・モリソン主演でブロードウェイ入りした。映画版が、史実のドラマ化風のつくりなのに対して、ミュージカル舞台版は“新作舞台『ピーターパン』の幕が上がるまで”といった趣。食卓でスプーンに反射した光が小さく動くのを見てティンカーベルの存在を思いついたり、奇想天外な新作の内容に不満タラタラの俳優たちが、稽古後の居酒屋でPLAYとは「演技」だけでなく「遊び」の意のはずだと気づいて初心に戻ったり。舞台人らしいリアルな芝居づくりの過程をたどりながら、演劇というライブの魅力を伝える素晴らしいミュージカルに仕上がっている。この時演出を担ったダイアン・パウルスは、「お母さんなんかいらない」と強がるピーターパンにはバリ自身が投影されていて、子どもたちの親(代わり)となることで、やっと自分の中のピーターパンを追い出し、大人になるバリを描こうとしたと語っていた。
今回の日本キャストによる初演は、劇団四季の『ロボット・イン・ザ・ガーデン』でミュージカルにも冴えを見せた小山ゆうなによる新演出。多くの悲しみを内包しながら子どもたちと本気で遊び、自身を見つめる繊細なバリ役で、山崎育三郎の新たな魅力を引き出してくれるに違いない。
文=伊達なつめ
※InRed2023年5月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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