『外地の三人姉妹』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!

執筆者:伊達なつめ

外地の三人姉妹

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演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、KAAT×東京デスロック×第12言語演劇スタジオ『外地の三人姉妹』をピックアップ。


鋭く冷静な観察眼で描く、植民地支配下の朝鮮半島

 ロシアによるウクライナ侵攻もまだ決着を見ないというのに、今度はパレスチナの武装組織ハマスが、閉じ込められたガザからイスラエルに攻撃を始めて、数倍返しを食らっている。この先どうなるのか、どの識者の予測にも希望が欠片も感じられず、聞いているだけでもきつくなる日々。もちろんロシア×ウクライナ、イスラエル×パレスチナに限らない。世界中のさまざまな地域で、隣人どうしの戦闘や屈辱的な占領状態は、遥か昔から絶え間なく続いている。第二次世界大戦で敗戦するまでの、日本の隣人に対する態度もそうだった。
『外地の三人姉妹』(2020年初演)は、日本の統治下にあった1930年代の朝鮮半島の、ある地方都市が舞台。ここに暮らす日本人にとって、故郷日本は「内地」であり、植民地にした朝鮮はあくまでも「外地」であるという、奪っておきながら格差を滲ませるこの呼び方からして、やんわり嫌な感じではある。
 チェーホフの名作『三人姉妹』では、軍人である父の駐屯するロシアの地方都市に住む姉妹たちは、父亡き後、かつて住んでいたモスクワに帰りたいという願望を抱き続ける。同じように『外地の三人姉妹』では、日本軍の将校だった父とともに「外地」で生活してきた姉妹が、東京に帰りたいと願いながら、帰れずにいる。現実逃避的に東京を理想化してしまう三姉妹に対し、男兄弟は現地の女性と結婚して子どもも生まれ、内地に戻る気はなさそうだ。屋敷に出入りする他の日本人も、朝鮮を露骨に蔑視する軍人や、差別意識が露呈していることに無自覚そうな善人など、さまざまな人がいる。同じく現地の人々も、朝鮮と日本のミックスで創氏改名をする若者から、心の中では日本人を軽蔑しつつ生活のために日本人宅で働く人まで、多様でいて深いところではつながっている、日本への複雑な距離感を持つ人々が登場する。
 翻案と脚本は、韓国の劇作家・演出家ソン・ギウン。演出は日本の多田淳之介。この2人は、同じくチェーホフの『かもめ』を日本統治下の朝鮮に置き換えた『가모메 カルメギ』(かもめの意)を日韓で上演し、両国で大反響を巻き起こしたコンビだ。占領する側とされる側、どちらかのみの視点に偏りすぎないよう、しかし互いに生じる違和感については避けることなく議論を尽くす。そんな健全な関係を築き上げたからこそ実現した、肌感で味わう日帝ドラマになっている。
 たとえ国政レベルで両国の関係が悪化しようと、このフェアな姿勢を共有できていれば信頼は揺るがない。舞台芸術は、敵対を回避するツールでもある証しだ。

外地の三人姉妹

原作=アントン・チェーホフ『三人姉妹』 翻案・脚本=ソン・ギウン 演出=多田淳之介 翻訳=石川樹里
出演=伊東沙保、李 そじん、亀島一徳、原田つむぎ、アン・タジョン、夏目慎也、佐藤 誓 、大竹 直、田中佑弥、波佐谷 聡、松﨑義邦、イ・ソンウォン、佐山和泉、鄭 亜美
11月29日(水)~12月10日(日) KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
(問)チケットかながわ TEL:0570-015-4152020 https://www.kaat.jp/

※InRed2023年12月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
※画像・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください。
※地震や天候などの影響により、イベント内容の変更、開催の延期や中止も予想されます。詳細はお問い合わせ先にご確認ください。

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この記事を書いた人

演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。

Twitter:@NatsumeDate
Website:http://stagecalendarcv19.com

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