OSHI-KATSU
【2月・3月公開映画】放送作家・町山広美が厳選!この春注目の映画2選!
執筆者:InRed編集部
InRedの長寿映画連載「レッド・ムービー、カモーン」。放送作家の町山広美さんが、独自の視点で最新映画をレビュー。
世界を覆う自家中毒から
正気を取り戻すための笑い
「てめえら人間じゃねえ。叩っ斬ってやる」は昭和に人気を博した時代劇の決め台詞だ。主人公は、極悪人を自分らと同じ人間ではないと断じる。だから視聴者は毎週、痛快な思いで殺しを見守った。
『ブゴニア』も、悪の元凶と見定めた人物を、人間ではないと断じる男の話だ。でも観客は痛快どころか、心配になる。人間でなく「アンドロメダ星人だ」と言い出すから。欧米のネット界隈でおなじみの陰謀論、「あの有名人は実は宇宙人」説だ。
宇宙人と決めつけられるのは、巨大製薬会社の若きCEOとして世界的な名声を得ているミシェル。資本主義社会の勝者である。一方、彼女を拉致して侵略者と自白させ、地球から撤退させる大志を抱く男テディは、田舎の実家で貧しく暮らす敗者だ。
テディは、宇宙人同士の通信機だからとミシェルの髪を剃り、拷問し、自白をせまる。頭脳明晰なミシェルは、巧みなディールで主導権を奪い、事態は二転三転、混迷していく。
この映画は、今世紀の韓国映画のベストにも挙げられる『地球を守れ!』が原作だ。本国でもヒットしなかった不遇の名作だが、アリ・アスターが惚れ込んでリメイク企画が進行、自分は製作にまわって、監督はヨルゴス・ランティモスに委ねられた。
『地球を守れ!』は、のちに『1987ある闘いの真実』で民主化闘争を描くチャン・ジュナン監督の長編デビュー作で、脚本も彼の筆。B級コメディと見せかけて、IMF通貨危機から復活し経済成長を遂げんとする韓国で、成長に置き去りにされた側の青年が「真実」を探り当ててしまう物語だった。人類の業であり、資本主義が内包する暴力、格差、労働搾取への目
線は原作の懐中にあった。
それから20年余、アメリカではテック系ビリオネアたちが巨万の富を独占、勝者として政治もコントロールするようになった。そのひとりイーロン・マスクは、「共感」は文明の発展を妨げると主張する。人間らしさを嫌う新支配階級の誕生、火星開発に熱心な彼らを目の当たりにして、荒唐無稽なはずの物語は不快な現実味を帯びてきた。語り直されるべき好機到来。ミシェルのモデルは女版イーロンともてはやされた、医療系起業家エリザベス・ホームズだろう。詐欺罪で服役中だが。
これまでのランティモス作品にはない人情味は、時代の深刻さと原作に由来する。社会の犠牲者であるテディ。彼を慕い、陰謀論をコタツのように温かく共有する、従兄弟のドン。彼らが世界から無視され孤立してなお、悪人を人間以外だと思うのは、人間信じ期待しているからだろう。その希望を裏切るなら、人類は地球を他の生物にお返しするしかない。
この記事を書いた人
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