OSHI-KATSU
【12月・1月公開映画】放送作家・町山広美が厳選!年末年始に注目の映画2選!
執筆者:InRed編集部
InRedの長寿映画連載「レッド・ムービー、カモーン」。放送作家の町山広美さんが、独自の視点で最新映画をレビュー。
誰からも顧みられずとも
自分は自分を見てるから
男2女1。物語によく使われる構図だ。とりわけ映画では、男の作り手がその三角形に願望や自己憐憫やらを気持ちよく流し込んできた。
だから、『グッドワン』の変奏は笑える。父親とその親友、おっさん二人と17歳の女子サム。色気なき三角形で、NY郊外の広大な自然公園に2泊3日、トレッキングを楽しむのだが。
父親は、離婚に泣く友マットを励ます俺、再婚を遂げた上に前妻の娘が趣味につきあってくれる俺に満足げだ。マットはそんな友に甘えて、キャンプの準備もザツ。サムを困らせ、延々とつまらない話を聴かせ、しょうもないちょっかいを出す。車の窓を開けて風を当ててきたりとか。うざい。
サムはそれらに、うすいニコニコを返す。タイトルが意味するところの「いい子ちゃん」。何より父親がそう決めつけていて、トレッキングの技術が身についてる彼女の様子に、父親から素直に教わってきた子ども時代が見える。
でも、心に澱が溜まっていく。澱になる些細な違和感の解像度が、この映画はとても高い。例えば、若い男性グループと遭遇して父親たちが盛り上がる場面。カメラは、彼らに顧みられずともニコニコする、サムの顔にさす筋肉の強張りを捉える。演じるリリー・コリアスの表現力、そして本作で長編デビューを遂げた監督・脚本のインディア・ドナルドソンの、観察力と抽出力の賜物だ。ああこういうモヤモヤ知ってる、と多くの若い女性や元若い女性が思うだろう。この映画には、ずっと居たのに顧みられなかった人物の視点、ずっとあったのに顧みられなかった感情からアメリカ映画を作りなおす女性監督の先輩、ケリー・ライカートの影響が見える。
さてサムはどうする。じゃれ合うおっさん二人は、サムに一個の人格を認知せず、壁打ちさながら、自分らばかり感情を垂れ流してくる。こんな、鋭い痛みはないがダメージが蓄積していく暴力に、どう対抗するのか。
その結末を、エンディングの曲が縁取る。シンガーソングライターの先駆けでありながら埋もれ、50年以上も顧みられない存在だったコニー・コンヴァース。早すぎた才能を親に疎まれ失意のうちに失踪して人生を終えた彼女が、理知と情感の織りなす声で歌った、孤独との親密。サムが、ひとりの人間として自分を築こうとしている、孤独を引き受ける準備があることを祝福するようにその歌は響く。
この記事を書いた人
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