OSHI-KATSU
【10月・11月公開映画】放送作家・町山広美が厳選!この秋、注目の映画2選!
執筆者:InRed編集部
『さよならはスローボールで』の原題は、「イーファス」。野球用語で、ピッチャーが投げる、山なりの軌道を描くスローボールのこと。遅すぎて、バッターが打ち損じやすい。ボールが空中にある間、前に進んでいたはずの時間が立ち往生する不思議。
タイトルのごとく、映画内時間の流れも遅い。アメリカ北東部の郊外で、90年代のある秋の午後、おっさんたちの草野球の試合が始まって終わる、それだけ。長く利用してきた球場は閉鎖が決まり、最後の試合ではある。かといって涙にくれることもなく、カメラも登場人物も試合にしっかり集中するわけでなし。むしろ、ここぞという場面を映画はわざと見逃し、観客
は心地よい不自由に放置される。
終わりを見届ける。そういう映画だ。終わるのは試合だけではない。おっさんたちが毎週、9人×2チームで集う場も、ここで紡がれる人間関係も終わる。野球は待ち時間がやたら長いスポーツだが、現在のメジャーリーグでは投球の制限時間が設けられるなど様変わりしつつある。緩やかな繋がりがあった社会も終わるし、何も進まない休日の午後も終わる。草野球が体現するアメリカの懐深さも。
30代のカーソン・ランド監督はこの長編デビュー作で、加速する現在にはなくなった遅い時間を蘇らせた。しかしそれは、切なくもあっさり、そして明確に終わるのだ。
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