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『團菊祭五月大歌舞伎』 『六月大歌舞伎』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!
執筆者:伊達なつめ
演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、『團菊祭五月大歌舞伎』 『六月大歌舞伎』をピックアップ。
後世に語りたくなる!? 歴史的瞬間をその目で!
30歳代にもなると、「昔はよかった」的なことを言って後輩に引かれるパターンは経験済みじゃないだろうか。歌舞伎のように、俳優側も観客側も稼動期間が長くなる古典芸能系では、それが常態化。何かといえばもう生の舞台は見られない過去の名優のことを持ち出して「九代目團十郎こそが本物の歌舞伎役者」とか「五代目菊五郎には遠く及ばない」などと現状を見下す発言をして若い世代から顰蹙を買う芝居好きのことを、かつては「團菊じじい」と呼び、時代が下って六代目尾上菊五郎(1885~1949)と初代中村吉右衛門(1886~1954)が歌舞伎界を牽引していた時代のことばかり懐かしむ長老を「菊吉じじい」と呼んだりする。この双方に引用される「菊五郎」は、人気と実力を兼ね備えるだけでなく、代々それをキープしているビッグネーム。今回その八代目を襲名する五代目尾上菊之助は、天性のビジュアルに気品と磁力を併せ持ち、ひたむきに役と向き合う真摯さで愛されているスターだ。
襲名披露作品のひとつ『弁天娘女男白浪』は、五代目菊五郎のために書かれた人気作で、女装がバレた少年・弁天小僧菊之助が、開き直って片肌脱ぎ、鮮やかなタトゥーを見せながら啖呵をきる(写真左上)場面が見どころ。「知らざあ言って聞かせやしょう」で始まるその自分語りのモノローグは、「ここやかしこの寺島で小耳に聞いた祖父(じい)さんの似ぬ声色で小ゆすりかたり。名せぇ由縁の弁天小僧菊之助たぁ俺がことだ」でビシッときまる。寺島とは菊五郎家の本名の姓(ちなみに寺島しのぶは今回襲名する菊五郎の実姉)で、「祖父さん」とは尾上菊五郎の名を一躍高めた三代目菊五郎のこと。「そんな偉大な祖父に似てもいない口真似をしながら悪事を働き、名前もあやかって菊之助と名乗っ
てる孫のオレ」みたいなことを言ってるせりふだ。物語の中に、しれっと尾上菊五郎という役者の家のヒストリーを織り込む。初演時の観客は、まだ十代の孫が扮する弁天小僧に、祖父の名優三代目菊五郎の面影を重ねたのだろう。そんな継承が五代、六代、七代と続き、八代目誕生に至る。しかも同時に八代目の長男で将来の九代目候補の丑之助(11歳)が、六代目菊之助を襲名。同作品の次の場面で弁天小僧役に初めて挑む。
こんな歴史的瞬間に観客として立ち合ったら、数十年後に「九代目菊五郎が初役で弁天小僧をやった時はね」なんて自慢するのは目に見えている。こうして脈々と「菊〇じじい」も継承されるのだ。
『弁天娘女男白浪』 弁天小僧菊之助=尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎 撮影=岡本隆史
『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=尾上丑之助改め六代目尾上菊之助 撮影=岡本隆史
松竹創業百三十周年
尾上菊之助改め 八代目 尾上菊五郎襲名披露
尾上丑之助改め 六代目 尾上菊之助襲名披露
『團菊祭五月大歌舞伎』
演目=【昼の部】『寿式三番叟』『勧進帳』『三人吉三巴白浪』『京鹿子娘道成寺』 【夜の部】『義経腰越状』『襲名披露 口上』『弁天娘女男白浪』
5月2日(金)~27日(火)歌舞伎座
『菅原伝授手習鑑 寺子屋』松王丸=尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎 撮影=岡本隆史
『連獅子』親獅子の精=尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎、仔獅子の精=尾上丑之助改め六代目尾上菊之助 撮影=岡本隆史
松竹創業百三十周年
尾上菊之助改め 八代目 尾上菊五郎襲名披露
尾上丑之助改め 六代目 尾上菊之助襲名披露
『六月大歌舞伎』
演目=【昼の部】『元禄花見踊』『車引』『寺子屋』『お祭り』 【夜の部】『暫』『襲名披露 口上』『連獅子』『芝浜革財布』
6月2日(月)~27日(金)歌舞伎座
(問)チケットホン松竹 TEL:0570-000-489
文=伊達なつめ
※InRed2025年5月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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この記事を書いた人
演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。
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