【3月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー
『Four Daughters フォー・ドーターズ』、『ジェリーの災難』

執筆者:InRed編集部

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InRedの長寿映画連載「レッド・ムービー、カモーン」。放送作家の町山広美さんが、独自の視点で最新映画をレビュー。

映画の新しい「使い方」
ホームムービーの新時代

 倍速で、スマホの小さな画面で。映画の「見方」が変わるうちに、見る目的は、「ストーリーを知ること」に絞られてきた。でも、映画で見られるのはそれだけでしたっけ?

 「Four Daughters」は、映画にはこんな「使い方」があるのか! と目を開かせてくれる。監督を筆頭に、出演者もスタッフもほとんどが女性。呪いだと例えられることも多い、母と娘の関係をまずは解き明かしていく。
 
 主人公は母オルファと、娘の4姉妹のうち下の2人。実話をご本人たちが再現する映画、そこまでは前例もある。この映画ではさらに、ベテラン俳優がオルファの代役にスタンバイした。
 
 それは自身で再現するにはしんどい場面のための緊急対応でもあるが、カウテール・ベン・ハニア監督はこの映画を「記憶を取り戻すための治療的な実験室」として構想したと語る。どう行動したか、オルファが自分役の俳優に演技指導し、なぜこう言ったのか、演じる俳優からの質問に答える。そうすることでオルファは、自身を客観視できる。さらに娘たちは、俳優が演じる家族を相手に過去を再現することで、率直に真意を吐露し、あの時の自分を見つめ直すのだ。
 
 起きた出来事は重い。上の娘2人が、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に加わってしまった。アフリカ北岸に位置するチュニジアでのでのこと。
 
 何が娘たちにそんな選択をさせたのか。まず監督はオルファを取材したが、いわゆる悲劇の母の役割に収まった答えしか出てこなかった。真実に近づくため、代役という装置が準備された。
 
 母親。被害者。そうではなくても女性は、日常的に役割に収まることを社会に強いられるし、役割を演じてしまう。しかも母親という役割のお手本は自分の母親が多くを占め、役割像は再生産されやすい。オルファは、娘4人に向けた抑圧が、自身が母親から受けた抑圧の再演だと気づいていく。
 
 加えてこの映画では、父親など男性の関係者をすべて同じ俳優が演じた。これは、役割に依拠して生きるオルファにとって、男性も役割的な存在でしかないことを表す。
 
 卓見だ。下の娘2人が、ISの男性は女性に過激な規律を強いて支配し、まるで人形遊びだと指摘をする。正しい。と同時に、異性を都合よく幻想や役割に当てはめるのは、男女にとどまらない社会全体の問題点だともこの映画は指摘するのだ。
 
 母オルファからの強烈な抑圧に立ち向かうため、上の娘たちはもっと大きな役割の存在に頼った。神で母親を、社会の抑圧を跳ね返そうとして、飲みこまれた。なんという悲劇だろうか。
 
 しかしこの映画を見ることはまだ10代である下の娘たちの、現実から目を逸らさない決意の確かさ、連鎖を断ち切る意志の強さを、まぶしく確認し続ける作業でもある。

この記事を書いた人

「35歳、ヘルシーに!美しく! 」をテーマにしている雑誌『InRed(インレッド)』編集部。 “大人のお洒落カジュアル”を軸に、ファッションや美容はもちろん、ライフスタイル全般を網羅。公式ウェブサイト『InRed web』ではライフステージの変化の多い世代ならではの、健康、お金・仕事、推し活に関する情報を発信。お洒落で楽しい毎日に役に立つヒントをお届けしています。

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