【2月・3月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー
『Playground/校庭』、『聖なるイチジクの種』

執筆者:InRed編集部

 校庭と同様に家庭も、恐怖に支配されるスリラーの舞台になりうる。イラン映画『聖なるイチジクの種』では、予審判事の家庭で、護身用に国から与えられた拳銃が紛失。見つからなければ、懲役は必至だ。妻か長女か次女か、誰がなぜ奪ったのか。
 
 夫が昇進し、妻は広い官舎が与えられると喜んでいた。生活は豊かで、長女は大学に進み、次女は髪を青く染めたいとはしゃぐ。しかしこの暮らしは、革命後の政府に従うことによって守られている。9歳以上の女性はヒジャーブで髪を隠すことが義務づけられており、つい最近22歳の女性がこれに違反したと逮捕され、直後に不審な死を遂げた。道徳警察の暴力を明らかにすべきと抗議の運動が広がり、この家の姉妹もSNSで情報を追いかけている。一方で父親は、抗議運動の逮捕者を、流れ作業で死刑に送り込む日々だ。
 
 モハマド・ラスロフ監督は、22年に起きた不審な死に対して抗議の声をあげた人々、命懸けで抗議する女性たちに触発されてこの映画を撮り、政府に追われながら海外公開までを戦った。そのことと同じくらい着目すべきは、観客を驚かせ身を乗り出させるエンタテイメントの手法を駆使して、この物語を演出していること。
 
 家庭に持ち込まれた拳銃は国家、独占される暴力の象徴だ。ラストはすがすがしい。民主主義の世界的リーダーを任じる超大国が中絶の権利さえも女性から奪おうとしている今、このすがすがしい結末を、理想主義者の夢想と冷笑するのはただ愚かだ。

『Playground/校庭』

21年 ベルギー 72分 監督・脚本:ローラ・ワンデル 出演:マヤ・ヴァンダ
ービーク、ガンター・デュレ、カリム・ルクルー、ローラ・ファーリンデン 3/7
(金)より新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

© 2021 Dragons Films/Lunanime

オフィシャルサイト

『聖なるイチジクの種』

24年 フランス・ドイツ・イラン 167分 監督:モハマド・ラスロフ 出演:ミ
シャク・ザラ、ソヘイラ・ゴレスターニ、マフサ・ロスタミ、セターレ・マレキ 2/
14(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

© Films Boutique

オフィシャルサイト

文=町山広美

放送作家。「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」「まさかの1丁目1番地」を担当。江東区森下の書店「BSEアーカイブ」店主。

イラスト=小迎裕美子

※InRed2025年3月合併号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
※画像・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください。

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この記事を書いた人

「35歳、ヘルシーに!美しく! 」をテーマにしている雑誌『InRed(インレッド)』編集部。 “大人のお洒落カジュアル”を軸に、ファッションや美容はもちろん、ライフスタイル全般を網羅。公式ウェブサイト『InRed web』ではライフステージの変化の多い世代ならではの、健康、お金・仕事、推し活に関する情報を発信。お洒落で楽しい毎日に役に立つヒントをお届けしています。

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