【2月・3月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー
『Playground/校庭』、『聖なるイチジクの種』
執筆者:InRed編集部
InRedの長寿映画連載「レッド・ムービー、カモーン」。放送作家の町山広美さんが、独自の視点で最新映画をレビュー。
校庭も家庭も世界である
そのことの絶望と希望と
多様性も公平性も包括性も。もうお払い箱ねと、超大国の大企業や大金持ちがぶっちゃけて、新しい年が始まった。もっと儲かる世の中が来るといわれても先がよく見えないなら、身近なところを見直してみよう。
『Playground/校庭』はわずか72分。観客はその間ずっと、ベルギーの小学校の新入生、ノラに張りつく。ほぼ背後霊の位置で、彼女の耳に届く音、彼女の周囲1メートル弱の視界しか獲得できない。ノラの薄い肩を握るような気持ちで、大人として見守っていられるのは最初だけ、懐かしい恐怖と焦燥感に心を締め上げられ、幼く無力だったあの頃に引き戻される。
なにしろいきなりの号泣だ。知らない人ばっかの場所に行くの、怖い。少しだけ年上の兄アベルが「友達ができるよ」と言うけれど、学校も友達もよくわからない。でも、お父さんとは校門でさよならだ。号泣。
84年生まれのローラ・ワンデル監督が、脚本も書いたデビュー作。7歳の感覚世界を体感させるため、画面も音声も緻密に作り込んだ。大人の全身がほとんど映らないのは、スヌーピーの漫画「ピーナッツ」の世界観を思わす。何度か繰り返される、ノラの後頭部が大半を占める画面は、ナチスの強制収容所でのサバイバルを観客に体感させようとした映画『サウルの息子』を参考にしたようだ。
この映画では、学校という集団に強制的に放り込まれてのサバイブが描かれる。兄アベルがいじめのターゲットとわかり、ノラにとって学校は地獄になる。校庭で行われる子どもの遊びは、ただでさえ排除や死をはらんでいる。大人の社会を模倣しているのか、人間はそもそも集団を、そのようにしか形成できないのか。
7歳の感覚世界に没入していたはずが、人間社会を俯瞰する視点に。原題の「世界」は、大風呂敷ではない。学校教育と軍人教育が双子であった歴史にも思いが及ぶ。この世界はそもそもが、設計ミスではないのか。
靴紐の結び方を教わったノラが、教わったのとは違う自分なりの方法で父親の靴紐を結んでみせる時。抱きしめられていたノラが、力いっぱい抱きしめる時。希望が手繰り寄せられる。
この記事を書いた人
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