【11月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー
『ドリーム・シナリオ』、『画家と泥棒』
『画家と泥棒』の監督ベンジャミン・リーもノルウェー出身。首都オスロで二人の人物を3年余り追い、一本一本の木を慎重に組み上げるがごとき編集で、人と人の交わりがどれほどの実りを手繰り寄せるかを物語る、聖堂のような映画を完成させた。
始まりは犯罪。著名ではない画家の作品が、ギャラリーから盗まれた。フレームから200本もの釘を抜いて絵を盗んだ犯人は逮捕され、二人組のうちベルティルというタトゥーだらけの男が出廷。画家バルボラは彼に会い、あなたを描かせてと頼む。
監督はこの時点で出来事を知り、二人を撮り始めた。ベルティルは言う。「彼女は俺をよく見ている。俺も彼女を見ている」
母国チェコにいたバルボラは、心身を痛めつける男から逃れてオスロに来た。会話は英語、スムーズではないのにベルティルは彼女の痛みと暗黒に気づく。そのベルティルは技能を伸ばす可能性があったのに、無謀な行為を重ねてきた。自らを死に追いやるように。バルボラは彼の死臭を嗅ぎつけた。恋人いわく「他人の苦しみを見つけてアトリエに持って帰る」。
二人の間に立ち上がる、陰鬱なエグレゴリア。ともに暗闇にのみ込まれてしまうのだろうか。
「悪魔は暗闇で育ち光の中で死ぬ」。ベルウィルの言葉だ。光のもとで、誰かが必ずちゃんと見てくれること。どちらの映画でも、そのことがこれからをほの明るく照らす。
『ドリーム・シナリオ』
23年 アメリカ 102分 監督・脚本・編集:クリストファー・ボルグリ 出演:ニコラス・ケイジ、ジュリアンヌ・ニコルソン、リリー・バード、ジェシカ・クレメント、マイケル・セラ、ティム・ミードウズ、ディラン・ゲルーラ 11/22(⾦)より新宿ピカデリーほか全国公開
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『画家と泥棒』
20年 ノルウェー 102分 監督:ベンジャミン・リー 出演:バルボラ・キシルコワ、カール・ベルティル・ノードランド 11/9(土)より東京ユーロスペースほか全国順次公開
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文=町山広美
放送作家。「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」「まさかの1丁目1番地」を担当。江東区森下の書店「BSEアーカイブ」店主。
イラスト=小迎裕美子
※InRed2024年12月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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