【10月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー
「映画作家 ジャンヌ・モロー」『リュミエール』、『ジョイランド わたしの願い』
『ジョイランド わたしの願い』の主人公夫婦は、自分が欲しいものなど考える必要がない、考えてはいけない因習に閉じ込められている。
パキスタンの古都、ラホール。家長である父親に決定権が集中する家で、無職の次男ハイダルの妻ムムターズが仕事を続けていることは恥だ。夫がやっと職につくと、彼女は誇りを持っていた美容の仕事を断念、専業主婦として男児が欲しい一家の願いを託されることに。ハイダルが得た仕事は劇場のバックダンサーで、体面が命の父親には秘密にするしかない。そしてセンターに立つダンサー、ビバとの出会いは彼らの行方を変えていく。
ビバはヒジュラ、男性の身体で生まれ女性の身なりで第3の性を生きている。ビバとハイダルとの交流は多様性の啓蒙なんかじゃなく、もっと肉体に深く分け入っていく。ムムターズの苦悩も、同様だ。父親も因習の犠牲なのだと、サーイム・サーディク監督は母国の問題点に踏み込みつつ、身体と情感を失うことがない。
レバノン出身ジョー・サーデのカメラが、アジアの湿った光を巧みに操り、さらに映画を潤わせている。どんな性であれどんな関係であれ、結ばれた一対一こそ大切なのだと物語る、美しい一対一のカットがいくつも。
欲しいものを見定めると、失ってしまう。けれども、欲しいものがわかってるはずの「リュミエール」のサラでさえ、そうなのだ。でもそれでも、欲しがることが生きること。
「映画作家 ジャンヌ・モロー」『リュミエール』
76年 フランス 102分 監督・脚本:ジャンヌ・モロー 出演:ジャンヌ・モロー、ルチア・ボゼー、フランシーヌ・ラセット 10/11(金)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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『ジョイランド わたしの願い』
22年 パキスタン 127分 監督・脚本:サーイム・サーディク 出演:アリ・ジュネ―ジョー、ラスティ・ファルーク、アリーナ・ハーン 10/18(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
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文=町山広美
放送作家。「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」「まさかの1丁目1番地」を担当。江東区森下の書店「BSEアーカイブ」店主。
イラスト=小迎裕美子
※InRed2024年11月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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