【9月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー
『ナミビアの砂漠』『ヒューマン・ポジション』
『ヒューマン・ポジション』の主人公は、世界一幸せな国と称賛されるノルウェーの、同じく若い世代の女性アスタ。地元新聞社の記者で、病気休養から復帰したばかりだ。
白夜の季節、歴史ある港町、大きな事件はない。ある工場の不手際で移民の労働者が強制送還されたらしい、と伝え聞く。法に従っての対応。でも一人の人間が、自分たちのいる整った居心地いい社会から削除された。アスタはその事実に立ち止まる。
ノルウェーが誇る製品、椅子をキーアイテムに、小さな不全を確認して終わるだけのこの映画は遅くて小さい。けれどもじっくりと、観客の感情の検出感度を上げていく。恋人である女性が、アスタを見守って作った歌に、優しい歌声に胸をきゅっとつかまれる。
それは『ナミビアの砂漠』でカナが、意外な人物と歌声を重ねる場面とも呼応して、若い女性たちは「今まで通り」を続けない、状況は変わり得るんだというほのかな希望を光らせる。
『ナミビアの砂漠』
24年 日本 137分 監督・脚本:山中瑶子 出演:河合優実、金子大地、寛 一郎、新谷ゆづみ、中島 歩、唐田えりか、渋谷采郁、澁谷麻美、倉田萌衣、伊島 空、堀部圭亮、渡辺真起子 公開中
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
『ヒューマン・ポジション』
22年 ノルウェー 78分 監督・脚本・編集:アンダース・エンブレム 出演:アマリエ・イプセン・イェンセン、マリア・アグマロ、ラース・ハルヴォ―・アンドレアセン 9/14(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
© Vesterhavet 2022
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文=町山広美
放送作家。「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」「まさかの1丁目1番地」を担当。江東区森下の書店「BSEアーカイブ」店主。
イラスト=小迎裕美子
※InRed2024年10月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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