【7月公開映画】放送作家・町山広美の映画レビュー
『墓泥棒と失われた女神』『メイ·ディセンバー ゆれる真実』

 夢や幻想を隔ててみたところで、現実を把握するのに自分が持つ言葉、経験、物語にあてはめ整形してしまうのが人の常であり限界。物事をありのままに見て取ることは難しい。『メイ·ディセンバー ゆれる真実』はその難しさについての映画だ。 

 女優のエリザベスが、23年前のスキャンダラスな事件を映画化するため本人に会いに行く。13歳の少年への性加害で収監された36歳の既婚女性、グレイシー。愛し合っていたと主張、出産を果たした二人の夫婦関係は良好だ。 

 この映画は、事件の真相やグレイシーの心理を探るサスペンスのフリをして、エリザベスの「理解」を通し彼女自身のいびつさが浮かび上がるという巧妙な構造だ。それは、報道や実話の映画化が陥る独善をも突き刺す。 

 私に見える現実は、私ごときに見える範囲の現実でしかない。その奥や地下には広大な現実が広がっている。そうであるなら、夢や幻想を自分から追い出さず、せめてもの彩りを。

『墓泥棒と失われた女神』

23年 イタリア·フランス·スイス 131分 監督·脚本:アリーチェ·ロルヴァケル 出演:ジョシュ·オコナー、イザベラ·ロッセリーニ、アルバ·ロルヴァケル、カロル·ドゥアルテ 7/19(金)Bunkamuraル·シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma

オフィシャルサイト

『メイ·ディセンバー ゆれる真実』

23年 アメリカ 117分 監督:トッド·ヘインズ 出演:ナタリー·ポートマン、ジュリアン·ムーア、チャールズ·メルトン 7/12(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.

オフィシャルサイト

文=町山広美

放送作家。「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」「まさかの1丁目1番地」を担当。江東区森下の書店「BSEアーカイブ」店主。

イラスト=小迎裕美子

※InRed2024年8月・9月合併号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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