放送作家・町山広美の映画レビュー
『Shirley シャーリイ』『WALK UP』
イデオロギーの20世紀からアイデンティの21世紀へ。衝突はむしろ増え、各自の孤立が深まる今。〝わたし〟に閉じ込められないヒントが「WALK U P」にはある。衣替えよりも早いサイクルで映画を撮るホン・サンス監督(編集や音楽も兼任)は、今回も身軽だ。
映画監督の中年男を軸に、4章仕立ての会話劇が4階建のアパートで展開される。取るに足りない男女の痴話。時間は奇妙にずれ、登場人物それぞれの「期待」が浮遊する。
囚われるほどの確かさが〝わたし〟や〝今〟にあるだろうか。煙のように立ち昇って消えちまえばいいと笑えるのは男の特権でもあるが、そんな非難を承知の煙の振る舞いは、この時代にどうにも心地いい。
『Shirley シャーリイ』
19年 米 107分 監督:ジョセフィン・デッカー 出演:エリザベス・モス、マイケル・スタールバーグ、ローガン・ラーマン、オデッサ・ヤング 7/5(金)よりTOHO シネマズ シャンテほか全国公開
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『WALK UP』
22年 韓 97分 監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス 出演:クォン・ヘヒョ、イ・ヘヨン、ソン・ソンミ、チョ・ユニ 6/28(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、Strangerほか全国順次公開
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文=町山広美
放送作家。「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」「MUSIC STATION」を担当。江東区森下の書店「BSEアーカイブ」店主。
イラスト=小迎裕美子
※InRed2024年7月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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