放送作家・町山広美の映画レビュー
『関心領域』『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』
映画における男と女の隔たりを『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』は問う。大学で映画を教えてもいる監督のニナ・メンケスが、自らの講演を映画化した。
映画の奇妙な慣習を検証していく。例えば、女の動きはスローに編集され音楽がついて、蠱惑的な存在となり、時には声さえない。なぜなら映画は観客→監督の「男の視線」、男の脳内を代行するからだ。そして、女を「見られる存在」として客体に閉じ込める認識は、発言する主体的な存在である現実の女性の、映画界での雇用を阻み、さらには観客の、女性についての認識を汚染している。
という認識は偏っているだろうか。この映画で提示される問いをもって過去の名作を観直す作業がかなり面白いことは、間違いない。
メンケス監督は親族にホロコーストの被害者を持ちながら、イスラエルが加担したパレスチナ難民キャンプでの82年の虐殺を検証する映画も撮った。彼女が凝視するのは、自分たちと異なる存在から人間としての主体を奪う、そのことの醜さだ。
『関心領域』
23年 米・英 105分 監督・脚本:ジョナサン・グレイザー 出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー 5/24(金)より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』
22年 米 107分 監督・製作:ニナ・メンケス 出演:リアノン・アーロンズ、ロザンナ・アークエット、キャサリン・ハードウィック 5/10(金)より、【ニナ・メンケスの世界】の1作品として、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
©BRAINWASHEDMOVIE LLC
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文=町山広美
放送作家。「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」「MUSIC STATION」を担当。江東区森下で、新刊も古書も雑貨も扱う書店「BSE」を運営。
イラスト=小迎裕美子
※InRed2024年6月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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