放送作家・町山広美の映画レビュー
『悪は存在しない』『人間の境界』

『人間の境界』は自国ポーランドで昨年の公開時に、政府から強い非難を受けながら、ヒットを果たした。昨年のポーランドといえば、 E Uへの境界としてウクライナから 戦禍を逃れてきた人たちを温かく迎え入れる映像がニュースでたくさん流れた。この映画でもその様子は再現されるが、見る目は変わり、大きな問いが立ちはだかることになる。 

 3年前の事実だ。ロシアのプーチン大統領と様々な協力関係にあるベラルーシの独裁者、ルカシェンコ大統領はヨーロッパへの亡命を目指す西アジアからの難民を、ポーランドとの国境に移送した。E U圏に難民を大量に送り込み、混乱を誘う企み。 ポーランド政府は、彼らは犯罪者やその予備軍だとして「人間兵器」と呼び、送り返す。 

 国境の森で、両国から投げ返される難民たち。いったい何が起きているのか。人間を人間以外に区別することで保たれる秩序を、アグニエシュカ・ホランド監督は告発する。原題は 「グリーン・ボーダー」、人間がそこを境界と決め、森は闇に落ちる。 

 私たちはどんなに遠くにきてしまったのか。「悪は存在しない」で 繰り返される、車のリアガラス越しに世界が遠のいていくさまは不穏と不可逆を突きつける。

『悪は存在しない』

『悪は存在しない』

23年 日 106分 監督・脚本:濱口竜介 出演:大美賀 均、西川 玲、小坂竜士、渋谷采郁 4/26(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、K2ほか全国公開

© 2023 NEOPA / Fictive

映画『悪は存在しない』公式サイト

『人間の境界』

『人間の境界』

23年 ポーランド、フランス、チェコ、ベルギー 152分 監督:アグニエシュカ・ホランド 出演:ジャラル・アルタウィル、マヤ・オスタシェフスカ 5/3(金・祝)よりTOHO シネマズ シャンテほか全国公開

©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Ceská televize, Mazovia Institute of Culture

映画『人間の境界』公式サイト

文=町山広美

放送作家。「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」「MUSIC STATION」を担当。江東区森下で、新刊も古書も雑貨も扱う書店「BSE」を運営。

イラスト=小迎裕美子

※InRed2024年5月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
※画像・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください。

KEYWORD

記事一覧へ戻る

KEYWORD

SNS SHARE

  • facebook
  • x
  • hatenabookmark
  • LINE

Related Article