マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!
執筆者:伊達なつめ
演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』をピックアップ。
悲劇を加速する展開とダンス表現に圧倒される
文芸でも演劇でも、時代の変化に左右されない普遍性を持つからこそ、古典は現代まで受容され続けている――。というのは真理であるとは思うものの、現実には、現代とのあまりのギャップに戸惑ったり、難解さを感じて古典と距離をおいてしまうケースは少なくない。ジェットコースターのようにスピーディでスリリングな10代の男女の悲恋を描くシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』だって例外ではなく、スマホのある時代には考えにくい手紙の行き違いや、仮死できる毒薬の存在など、特にクライマックスの悲劇の道具立てには、無理が目立つきらいがある。
そこで、マシュー・ボーンの登場だ。たおやかなバレリーナの代名詞みたいな『白鳥の湖』を、男性ダンサーによるワイルドな魅力に富む白鳥に換えて世間を驚かせただけでなく、設定を現代の英国王室にしたシニカル目線で見事に観客を惹き付けたボーンは、以後も大胆に設定を変えたリアルで厚みある物語と、クラシックバレエから解放された自由な振付によって、バレエやダンスの間口をグッと広げてみせた。『ロミオとジュリエット』を題材にしたバレエは20世紀にプロコフィエフの作曲によりいくつか名作が生まれているけれど、ボーン版は『白鳥の湖』同様、それらとは一線を画していて、むしろダンス・ミュージカルと言った方が、ニュアンスは近いかもしれない。
舞台は近未来、反抗的な若者たちの矯正施設という、いかにも不穏なシチュエーション。出会った瞬間に二人が恋に落ちるのは原作通りだが、ジュリエットは高圧的な看守のティボルトによるパワハラ×セクハラの被害者であり、ロミオのみならず、他の抑圧された収容者たちも看守への怒りを爆発させて、施設は暴動状態となる。そして鎮圧された若者たちの運命は、拍車を掛けて悲惨の一途をたどってゆく……。
仮死の薬によるすれ違いの悲劇が牧歌的に感じられるほど、およそ救いがない凄絶な展開に圧倒されること必至。そのアクチュアルな残酷さや慟哭を、すべてパワフルでドラマティックなダンスで表現し切る若いダンサーたちが素晴らしい。ダンス・ミュージカルに近いと言ってしまったけれど、同じく『ロミオとジュリエット』を現代化した『ウエスト・サイド・ストーリー』とは異なり、音楽はプロコフィエフがバレエのために作曲した組曲を使い、歌もせりふも入れずにダンスだけで勝負しているのは、やはりボーンの徹底した「プレイ・ウイズアウト・ワーズ(せりふのない演劇)」へのこだわりに違いない。シェイクスピアとマシュー・ボーン、相性最高なはずだ。
原作=ウィリアム・シェイクスピア 音楽=セルゲイ・プロコフィエフ 演出・振付=マシュー・ボーン
出演=ニュー・アドベンチャーズ
4月10日(水)~21日(日) 東急シアターオーブ
(問)ホリプロチケットセンター TEL:03-3490-4949
文=伊達なつめ
※InRed2024年5月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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この記事を書いた人
演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。
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