太陽劇団『金夢島 L’ÎLE D’OR Kanemu-Jima』演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!

太陽劇団

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演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、太陽劇団『金夢島 L’ÎLE D’OR Kanemu-Jima』をピックアップ。


日本へのオマージュが込められた話題作!

 コロナによる水際対策が解除されて、海外からのアーティストが制限なく来日できるようになったのもつかの間、プーチンによるウクライナ侵攻のせいで全世界的にエネルギー価格は高騰するわ、飛行ルートが変更になって移動によけい時間がかかるわ、円安は加速するわ、インフレで観客の買い控えは進むわと、海外招聘公演界隈は、泣きっ面に蜂状態。だいたいコロナ以前から、かつては毎年のように来日していたエッジィなコンテンポラリーダンスのカンパニーなどのアジア・ツアーから日本は消えがちで、そうした公演は、香港やソウルや台湾に見に行かねばならなくなったりしていた。国力の低下にともない、どんどん存在感が薄くなってゆくジャポンにとって、日本文化や観客に愛着を持ち、困難を厭わずに来日してくれるアーティストは実に貴重だと、最近いままで以上にありがたみを感じるようになってきた。
 この秋いちばんの注目公演、フランスの太陽劇団による『金夢島』は、その筆頭といえる。なにせ20世紀後半から世界の舞台芸術界に多大な影響を与え続けてきたレジェンド演出家アリアーヌ・ムヌーシュキンが、自身が演劇と出合った若き日から抱き続けてきた日本へのオマージュを、ありったけの愛でダイレクトに表現してみせた話題作なのだ。
 舞台は、病の床にある年配の女性コーネリアが、熱にうなされながら見る夢の中の架空の日本。国際演劇祭による町おこしを目指す市長派と、カジノリゾート開発派が対立する風光明媚な島に、地元民や島外の利害関係者、世界各地からやって来た俳優たちなど、さまざまな立場の人間が入り乱れる。太陽劇団の多国籍キャストが演じる日本人だけでなく、香港やアフガニスタン、時にはロシア語で話す人も出てきたりして、老女コーネリアの脳内に堆積した、ヨーロッパから見たアジアに対する追憶が、ザッピング的に現れては消えるような、不思議な世界だ。
 コーネリアは、一見してムヌーシュキンの分身とわかる。約60年前にマルセイユから船に乗って未知の国にたどり着き、ロスト・イン・トランスレーションのただ中で迷い込んだ浅草の大衆演劇の舞台に、演劇の本質を教えられたというムヌーシュキン。夢の断片のような彼女のその原体験が、作品のベースになっていることは想像に難くない。壮大かつ手づくり感漂う緻密な舞台美術を、観客の眼前で次々に変容させてスペクタクルを現出する太陽劇団。生の演劇の原初的な魅力に気づかせてくれるそのルーツは、しっかり私たちとつながっている。

太陽劇団

作・出演=太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ) 演出=アリアーヌ・ムヌーシュキン
10月20日(金)~26日(木) ※23日(月)休演 東京芸術劇場 プレイハウス ※京都公演あり
(問)東京芸術劇場ボックスオフィス TEL0570-010-296

文=伊達なつめ
演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、多数の雑誌・webメディアに寄稿。世界ステージ・カレンダーwithコロナhttp://stagecalendarcv19.com

※InRed2023年11月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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